検針メーターの自動読み取り

電気、ガス、水道などインフラ設備の保守点検においては、点検員がメーターを読み取って記録する作業が必要です。しかしメーター類が設置されている環境は、暗く狭いところが多く、両手が使えなかったり、ときには、のぞき込むことさえ難しく、作業員の負荷軽減と正確な作業を、いかにして両立、実現するかという課題を抱えています。

従来は、メーターを人間が読み取り、キーボードや画面タップにより記録していましたが、両手が使えない環境ではとても困難な作業となります。一つの解決策として、作業員が読み取った数字を音声で入力する方法も考えられましたが、暗くて人の目で読み取るのが難しいことも多く、読み間違いが起こります。更に騒音ノイズが大きいこともあり、音声入力では認識率が十分確保できないことがあります。せっかく正しく読み取った数字を、入力のときに間違えるという問題がありました。

そこで、メーター類をカメラで読み取り、その撮影画像とともに、画像認識によって数値を読み取る方法を開発しました。入力の確認ができれば、その場で記録も完了です。この方法ですと、現場からオフィスへ戻ったあとで、撮影した画像と入力数値を見比べてチェックすることができます。最近のスマートフォン搭載カメラは、人の目より優秀ですから、直接読み取るより、撮影画像を確認する方が負荷も軽減できます。デバイスも一般のスマートフォンの機能があれば十分で、導入コストも軽減できます。

使用例1:現場のメーターを撮影し作業員の操作により認識して保存する

メーター類の設置場所が無線通信のカバーエリアであれば、その都度、データを読み取り、性能の高いクラウドで、認識処理や記録保存処理を自動で次々に行うことができます。残念ながら多くのメーター類は地下に設置されており、圏外となってしまいますが、そうした場合も考慮して、オフラインでの自動読み取りにも対応しました。

使用例2:現場で撮影した画像を認識して自動的にファイル保存

開発の流れ

1. データの収集

現場のメーター画像を撮影し、ラベル付けを行い、訓練用のデータセットを作ります。ラベル付けとデータ変換の例を記します。

メーター画像へのラベル付け、及び訓練用データセットへの変換

2. 学習モデルの作成

メーター画像の特徴を抽出してモデルを作成します。機械学習ライブラリPyTorchを使用し、メーター画像のデータをニューラルネットワークで学習させたところ、十分実用に足りる性能を得ることができました。

メーター画像読み取りモデルの開発

3. 学習モデルの実装

得られたモデルを使って、メーター読取専用のスマートフォン向けアプリを作成します。スマートフォンの代わりに専用デバイスを用意することもあるでしょう。以上の手順を繰り返せば、読み取るべきメーター画像の種類やバリエーションが増えても、学習モデルを更新することで、システムは進化していきます。

学習モデルをスマートホンアプリ (Android) として実装

環境変化に適応する学習モデル

スマートフォンへの実装を行うことで、地下などネットワーク接続が難しい場所でもメーターを自動的に読み取ることが可能です。前述したように、同時に画像データを撮影することで、日時や環境の条件が異なるデータを収集し、そのデータを学習させることで、システムはますます進化していきます。

スマートフォンで学習モデルを更新することは困難ですが、学習モデルを作成するプロセスをクラウド上でコンテナ化し、更新した学習モデルをスマートフォンへダウンロードします。新たに作成する学習モデルで用いる学習データは、そのスマートフォンで撮影したメーター画像です。日々、様々な環境で撮影されるメーター画像、特に読み取りに失敗した例を学習させることで、システムは更に頑健になっていきます。

クラウド連携による環境に適応する学習モデル

クラウド+AI+IoTの可能性

AI学習モデルを適用する対象は、同時に新たなデータの発生源でもあり、データ収集の現場です。AI + IoT = AIoTとも呼ばれます。そこで収集されたビッグデータはクラウドに集められ、新たな学習モデルに更新されて、また現場で活用されます。工場やオフィスなどセキュリティが厳しい場所では、データをクラウドへ持ち出すことが禁じられていることもありますが、クラウドに代わるエッジ・コンピュータを現場に設置して対応します。