画像分解に基づく茶畑の生育状況認識

お茶の新芽をいつ、どれくらい伸びたところで摘むかは、お茶のでき具合にかかわります。早めだと芽が柔らかく品質は良いのですが、量が採れません。遅めだと量は採れますが、固い芽が増えてしまいます。新茶は4月から5月、二番茶は6月から7月など大体決まっていますが、気温や天気で前後します。そこで茶葉をドローンで撮影し、AI学習モデルを用いて摘みごろかどうかを調べようという事例です。

茶畑によっては覆いをかぶせ、テアニンからカテキンへの変化を少なくすることで、渋みが少なく、旨みの多いお茶を育てています。日光を遮断して栽培する「覆下園」(被覆茶園)と呼ばれ、撮影画像に制約が加わります。

ここでは、ドローンを活用した覆下園条件での茶芽色度合いの認識(新芽生育調査)を目的とし、以下のような手法を検討しました。

まず一般の色度合いの認識手法である、カラー画像RGBチャンネルに基づく手法を試しました。カラー情報に基づき茶葉の領域を分割すると、新緑 (R:206, G:213, B:172)、中緑 (R:152, G:165, B:123)、深緑 (R:72, G:83, B:37)、褐色 (R:85, G:79, B:64)、白色 (R:235, G:233, B:230)、黒色 (R:62, G:59, B:75) など様々な色が含まれます。新芽の画素は高いG(Green)値を持つため、Gの輝度値分布から色度合い、つまり新芽の割合が把握できます。

実際の茶畑の画像
R-G, G-Bごとの差分
    分割した茶葉領域
Gチャンネルの輝度値分布

次に、覆下園条件での茶芽の色度合いの類推手法ですが、葦簀による照度の変化が生じ、色情報による認識法では問題があります。そこで葦簀を真似たシミュレーション画像を作成します。茶畑の斜め画像から鉛直画像への変換を行い、カラー画像をRGB空間からLAB空間へ変換、葦簀の効果を真似た円盤状の穴を作ります。一様分布で穴の位置をサンプリング、正規分布で穴の半径をサンプリング、円盤状以外の画像領域では乗法的に照度を衰弱させました。

※ お茶の摘みごろは年1回でデータを集めるのが難しく、シミュレーションを使った探索はとても重要です。

   元画像             偽葦簀画像       偽覆下園条件での茶畑画像

Low rank and Sparse decompositionを用いて茶芽の色度合いを類推します。穴がポツポツと空いている(点在している)ということは、疎の性質を持っていると言えます。画像を低ランクのサブ画像と、疎のサブ画像に分解すれば、穴の位置が疎のサブ画像に含まれるはずです。下記のように定式化できます。

ただしD は元画像、Aは低ランクサブ画像、Eは疎のサブ画像
‖∙‖*は行列のnuclearノルム(特異値の和、ランク)
‖∙‖0はL0ノルム(行列の非零要素の数、疎性)

これを解くことで(方法は「参考」に記します)わかる葦簀の影響を、除去する手順を考えます。推定した穴領域の輝度値と周囲輝度値の比較で、照度の衰弱率を推定し、葦簀が遮った部分の輝度値を逆算します。

こうして茶芽色度合いの類推効果が検証され、歩道位置も特定できました。

実際の場面では、衰弱因子は空気による屈折など一つとは限りません。ドローンで動画撮影したときへの対応や、G値で茶芽色度合いの判断することが妥当であるか(赤外線などの手法も提案されています)など、まだまだ多くの課題を抱えています。

参考

Low rank and Sparse decompositionを用いて茶芽の色度合いを類推します。葦簀の穴がポツポツと空いている(点在している)ということは、疎の性質を持っていると言えます。画像を低ランクのサブ画像と、疎のサブ画像に分解すれば、穴の位置が疎のサブ画像に含まれるはずなので、下記のように定式化できます。

ただしD は元画像、Aは低ランクサブ画像、Eは疎のサブ画像
‖∙‖*は行列のnuclearノルム(特異値の和、ランク)
‖∙‖0はL0ノルム(行列の非零要素の数、疎性)

計算上L0ノルムの最適化が困難なため、代わってL1ノルムで緩和します。

ただし、‖∙‖1は行列要素全体の和

拡張ラグランジュ乗数法(Augmented Lagrange multiplier)による最適化を行います。

乗数𝜆を導入することにより、制約を取り除きます。

収束を加速させるため、拡張項(通常のラグランジュ関数に等式制約が満たされないことに対する罰則項)を追加します。

この拡張ラグランジュ関数を用いると、交互方向乗数法(Alternating Direction Method of Multipliers : ADMM)アルゴリズムで簡単に解くことができます。

While not converged do

End While

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